米寿でも綺麗なスイングが出来る。文●沼田晨

(まえがき)
私は、昭和6年2月の生まれ、即ち平成31年2月に米寿を迎えた、身長163㎝、体重64㎏の、平凡な年金生活者の老人です。ゴルフはもう50年以上やつて居ますが、若い頃のベストハンデイは14にしか行かず、ベストグロスも80を下回ったのは、僅か数回の典型的なアベレ-ジゴルフアーです。
練習をいくらしても、なかなか上手くならず、年齢と共に身体を壊す事が多く、ゴルフの楽しみより苦しみが勝って、止めてしまった友達も多い、私自身も76歳ごろ膝を壊して苦労しました。どうやら私どもの習ったゴルフは、苦しく身体にきついけれど、精神力で頑張れば良くなる。と言う昔風のものでしたから、肩や膝や、特に腰を傷め易く、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄など、重大な故障も起こしたりして、昔の飛ばし屋と呼ばれた人の殆が腰痛を訴えて居ます。
所が昭和と平成の境あたりから、ゴルフスイングが大きく変わってきたような気がします。特に女子プロが綺麗なフオームで距離が出る様になりました。何かこの方が人間の身体の構造や本能に適した、やり方なのではなかろうかと思い、全くの素人ながら生理学や、解剖学、筋肉学などを勉強して、毎日毎日、狭い庭でクラブを振り、私独自の練習法(注)のマットの上でタオルを叩く、叩きながら考えるのを繰り返して、もう20数年になります。
漸く次の様なことが分りましたので記録して置きます。

1.スイングでは伸張反射と頸反射が大切

殆どのゴルフアーは自分の身体の構造や、それを動かす筋肉の性質に就いては何も知らず、また知ろうともしていません。
動物は本能に基づいて身体の形を変える事で、迅速な運動をしています。
人間の場合も同じで、特に極限に近い迅速さを要求されるゴルフでは、最も必要な事ですが、誰もこれを問題にして居ないから不思議です。
自分の身体は、自分の意思で自在に動かす事が出来る、という迷信が未だに信じられていて、此処はこうしろ、あすこはどう動かせなどと言うレッスンや書物が,溢れるほど有りますが、外面から見てスイングの良否を論じているだけで、問題の本質を捉えているものは、殆どありません。
実は、スイングでの正しい身体の動かし方の一部始終が、全部頭に入っていたとしても、スイングの各段階で一々脳からの指令が手足に行く訳ではありません、実際には大脳と連携して運動を制御する小脳から、各部分に直接信号が行く、神経反射(反射と略称)の連続でスイングが行われるのです。
反射にも本能と結び付いて、色々の物がありますが、特に捩じりの中心付近を逆に捩じり返すと、今迄縮んでいた筋肉が急に伸びて大きいパワーを生む伸張反射と、頸周りで迅速な回転が起きると、顎が急速に閉められて、頭の位置を保つことが出来る頸反射とが、スイングにおいて特に大切です。

2.伸張反射とは何か

身体に止っている蚊を手の動きだけでパーンと叩く、目にも止らぬ速さですが、眼からの情報を受けた脳は、ただ蚊を叩け!と言う命令パルスを発するだけで、後は、身体の中に本能的に出来あがっている、筋肉や関節を順序良く自動的に動かすプログラムに従って、一切大脳にお伺いを立てる事は無く、迅速に運動が完了してしまいます。この事を伸張反射と言います。

こうしないで普通に叩こうとする時は、先ず手首を曲げるのに、掌側の筋肉と甲側の筋肉とが引張りっこを始めますが、徐々に甲側の筋肉が引張り勝って、掌側は縮もうとしながらも引き伸ばされ、手首が直角まで立ってきます。
打つ時はこの反対をやる訳ですが、一々、手首を曲げろ!この辺で止めろ!反対側に動かせ!と脳からの指令を受けていたのでは、余り迅速に出来ませんし、強力に打つ事も出来ません。実際にやって見れば直ぐ分かりますが、曲げて静止した形からは幾ら懸命に叩いても(掌側の筋肉を締めても)幾らの力も速さも出ませんから、蚊はこの間に逃げてしまいます。
伸張反射でパーンとやるときは状況が全く違います。意識は全くしていなくても、先ず、手首が後ろに曲げられると同時に、肘が迅速に折り曲げられます。限界まで行ったら、今度は手首の形はそのまま肘が急速に伸ばされて来ますので、掌は立ったままで押し出される形になります。今度は引張り負けしている掌側筋肉の付け根の所を、逆方向に強く引っ張る事になります。すると筋肉内のセンサーが「このままでは破断されてしまう!」と警報を発して、直ちに「全力で急速に縮め!」と言う反射が生じます。この瞬間に甲側の筋肉が急に緩んでパーンと叩ける事になります。丁度、綱引きで負けそうなチームが、全力を振り絞って引っ張った途端に、相手側が急に綱を離すと、味方の全員が後ろにひっくり返る様な事です。これを伸張反射といい、これをやると通常の4~5倍の速さで数倍の筋力が出ると言はれています。いわゆる反動を付ける事です、ゴルフスイングはこの伸張反射の連続であると言って良いでしょう。
今度は、話をもう一段上げ、手首と肘は伸張反射の起きる準備をさせて置いて、上腕と肩の動きで肘の反射⇒手首の反射と一挙に起こさせる事が出来ます。より大きい部分の動きを利用して、それから先の部分に伸張反射の連鎖反応を起こさせれば、速いスピードと的確なタイミングが得られるのです。

3.捩じれの伸張反射

板バネの片方を固定して置いて、他の端を廻してやると、捩じれてエネルギーが貯まります。ここで手を離すとパッと捩じれが元に戻りますが、離さないで捩じれの中心を真横に押しますとバネの時は、折れてしまいますが、胴体や腕などのような細長い身体に付いている拮抗筋が働き合う時は、不思議な事に捩じれの伸張反射が起きて、身体全体が迅速に伸びながら捩じれが逆方向に捩り返されます。
蝮がトグロを巻きながら得物を待って居る時には、身体全体は緩く曲げられてトグロを作っていますが、尻尾の近くでは逆に捩じれている部分があり、尻尾の先はガッチリと地面を掴んでいます。獲物が近づくと、この部分でトグロ全体を持ち上げる様にしながら逆方向に身体を捩り返します。途端に伸張反射が働き、極めて迅速に身体全体がピンと伸びて獲物を捕えます。カメレオンの舌等が迅速に伸びるのもこの現象です。縮み合うだけの拮抗筋で物凄いスピードが生まれるのは、動物が本能として持っている神経反射のお陰なのです。特にこの現象を伸張反射と言っています。ゴルフスイングのあらゆる段階でこの伸張反射が働いて居るのです。

4.身体全体の捻れと捻り返し

柔道や相撲で相手を投げ飛ばす時に、先ず右腰をグイッと右に捻って置いてから、此処で切返して、自分の左尻の膨らみを急速に裏返し、脊柱の一番下の仙骨を自分の股の間に押し込むようにする。同時に右脚が急速に伸びてきて、その内股に相手を乗せて投げ飛ばす事が出来ます。これが伸張反射のパワーです。
スイングの原動力も身体全体を捩って、それが捩り返される時の伸張反射で生じたパワーでクラブを振り、ボールを飛ばすのです。その主役になる筋肉群について考えます。まず、上半身を支える脊柱と脚の大腿骨とを結ぶ、大腰筋と言う大きな筋肉が、背中の真ん中少し下、第一腰椎の辺りから左右に手綱の様に伸びています。身体はこの大腰筋と腰廻りの筋肉とで捩られますので、その付け根、第一腰椎のあたり、ほぼ背中の真ん中が、上体の捩じれの中心になるのです。トップではこの部分がお腹ともども、ほぼ真後ろを向いています。
此処で前記の様に左右の内股を意識して、左尻の膨らみを急速に裏返して自分の股の間に押し込む様にすると、強烈な伸張反射が働いて、上体が迅速に裏返され、此れによって腕が迅速に振られて来るのです。

5.腰の切返しと大腿骨の軸回転

股関節と大腿骨との関係は図の様になっていて、大腿骨は上端近くで斜めに折れ曲がっていて、その頭は丸く球状になっています。ここが、腸骨(腰の大きな皿状の骨)にあいた関節穴の中にすっぽりと納まり、滑らかに滑り易くなっています。骨の曲がっている外側には、大転子と言う出っ張りがあり、此処に中殿筋や梨状筋などの筋肉が着いていて、普通に腰を回したり、開いたりする事は出来ますがこれだけでは、切り返して伸張反射を起こす事は出来ません。
大転子は、身体の外から触って見る事も出来るし、その向きを自分で感じる事も出来ます。普通、腰の骨と言って居るのは此処です。
所が、大転子の丁度、骨を挟んで裏側に小転子という小さな出っ張りがあり、此処に前述の大腰筋の先端が着いているのが秘密の種です。大転子の向きは自分でも感じ取ることが出来ますので、この部分を体の中心に向けますと、脚全体が内側に捻じれます。このとき小転子は身体の外側に向いているので、大腰筋は大腿骨に巻き付いた様になります。此処で大腰筋が、ぐっと締められると大腿骨が逆方向に迅速に軸回転、を起こします。切返しとは、まさにこの伸張反射を起こす事なのです。

6.本能に組み込まれている伸張反射

重いものを持ち上げる時に、上体を起こして腹筋を締め、左右の大転子を体の内側に向けたまま尻を後ろ一杯に引きますと、膝から下が地面に垂直になりガッチリ構えられます。これから左右の大腰筋がゆっくり引き上げられると、大きい力が働いて楽々と持ち上げる事が出来ます。
今度は同じように構えてから、軽くリズムカルに、この動きを繰り返してから最後に大きく動かしてやると、今度は大きなパワー(力×速度)が生まれて、ピヨンと飛び上がることが出来ます。
これらの動きは、どちらも本能に組み込まれた伸張反射の働きですが、後者の動きが、ゴルフスイングに上手く取り込まれているのです。
特に重い物を投げる時の腰の動きは、所謂、投擲本能として身体の中に組み込まれていますが、ゴルフスイングでの腰の動きと全く同じなのです。

7.現代打法のグリップ(ゆるゆるグリップの勧め)

昔は「グリップは爪が白くなるほど強く握れ!」と言われて来ましたが、経験から、これでは返ってヘッドが走らない事が解って来ました。そこでジャック・ニクラウスの名言 「手の中の小鳥を、潰しも逃がしもしない強さ」と言う事に成りました。要は強くも無く弱くも無く、程ほどの強さで握れと言う事でしょう。永い事これが主流でしたが、20年位前から「今にも手から抜け落ちそうな、出来るだけゆるゆると握る」のが良いという説が登場しました。折しも台頭して来た現代打法では、この握りが非常に有効な事が分かって来ました。特に非力な女子プロでも、この打法とこの握りとによって、昔の男子プロ顔負けの長大な飛距離が出る様になり、現在に到っています。
どうしてこうなったかに就いては、手の構造と筋肉とその働きについて知らなければなりません。

グリップした指を動かす筋肉の殆どは前腕に有って、それから出た長い腱が腱鞘(けんしょう)と云うパイプの中を通って、それぞれの指を動かしていますが、唯一、掌の中にある筋肉に拇指内転筋と言うのがあります。
この筋が働くと、手首が内捩じりして、掌が非常に迅速にギュウッと締め込まれます。薪割りや竹刀でエイッと打ち込みますと、右拇指は左回りに左拇指は右回りに、両側から柄物を絞り込みます。これで身体と柄物が一体になって強力な打撃が与えられます。この事は「打撃の両手絞り」と言って良く知られていますが、自転車のブレーキなどもこの現象を利用しています。ところが、この筋の存在を知らないで変な議論が繰り返されているのが、グリップの握りの強さです。 実は、我々老人の習ったスイングは打ち込むスイングで、この筋を過早に使っているから、返ってヘッドにブレーキを掛けてしまうのです。
前節までの動きで、左肩の裏返しで両手が伸ばされて来て、最後に左手首が内転し拇指内転筋が働いてグリップを締め、そこに右手も被って来てさらに押しながら右手も締められます。拇指内転筋は最強のストッパーなのです。ヘッドの遠心力が強ければ強いほど、この力は強くなるのです。どんなに早く振ってもクラブは決して抜ける事はありません。

8.左肩越し握りのグリップ

雪掻きなどでスコップを使う時、普通に左手を下から上に握ると疲れやすく、永くやると腰が痛くなります。所がその扱いに慣れている人は、左腕を肩越しに廻して左手を逆手に握ります、こうすると体幹の動きがスコップに伝わって楽々と仕事ができて、腰を傷める事もありません。鍬などの農具もこうやって使うのです。
現代打法のグリップでも、まず両手ともシャフトを下から上に持ち上げる様に緩く握り、そこから左手だけをくるりと右に回して掌を下に向け、ゆるゆると握つてから、身体に引き付けると云うものです。左手が逆手になったグリップというわけです。また右手は中指に引っ掛かる様に当たる程度で殆ど握らない。

このグリップですと、ヘッドの重さが良く分りスムーズに引く事が出来ます。しかも左手逆手グリップなので、左肩の裏側から押す感覚でバックスイングしてやると左手首が少し戻ると共にヘッドが真後ろにスッと突き出されます。この形でスイングをすると88歳の私でも、綺麗なスイングが出来るのです。

(注)書斎のゴルフ38号182-3頁より(イラスト)サイトウ・トモミ

9.転子の向きを考えてのセットアップとスイング

構える前に足の位置などを決めたら、両手をそれぞれの大転子の所に当ててから、身体を左右に数回、捻り捻り戻してやりますと、大転子と小転子の動きが体感として分ります。
クラブを持って構えたら、腹筋を締めてやると大転子は身体の内側に入り、小転子(大腰筋端末)は外側に出て、尻が張って来ます。特に右の大転子は飛球線方向に向けたまま、右脚を左に倒す様にして左に押し込んで置きますと、右尻が強く張って来ます。

バックスイングでは、顎をセットして、目線が動かない様にして置いてから、右尻の小転子周りの感覚で、クラブと腕とを含む身体全体を、右上一杯に捩じり上げる様にする。この時、右大腰筋は一杯に縮んでいますが、左大腰筋は逆に伸ばされています。
ダウンスイングのタイミングは自分で決めるわけでは有りません。全体のスイングの流れの中で、トップに達した感覚と共に、左股関節を真後ろに引くと仙骨部分が左に引き込まれて、左大腿骨の左向きの軸回転が始まります。この時、右脚が迅速に伸ばされて右大転子は限界まで左に引付けられます。
また、顎の締めと目線が固定されて居れば、左脇も右脇もピッタリ締まってヘッドの遅れが最大になります。
これからがスイングの最大の山場で、本能としての切返し、左も右も小転子が大転子を追い越します。特に右腰は大きく動いて、その内股で腕もクラブも、ボールも一挙に打ち上げる、大きいパワーを生みます。

10.腰の切り返しと伸張反射

バックスイングに於ける身体の動きは、図の①の様に右腰を大きく真後ろに引いてやります。これと同時に脊柱全体は腰の筋肉群の働きで、40~45°位右後ろを向き、最下部の仙骨と尾骨は其の儘に、その直ぐ上の第五腰椎から順に少しずつ捻り上がって行き、肩のラインの第6~第7胸椎あたりでは最初と90度くらいの捻れが出来ています。此の間の椎骨は11~12個有りますから一個当たりの捻れ角は平均4度位にしかなりません。

左肩は顎に当たるまで捩じり上げられ、腕とクラブはトップの形に納まるまで押し込まれます。また右肩は右一杯に開かれ、腕は肘から先、直角に曲げられて、ほぼ真上を向きます。グリップは首の真後ろ近く、高く納まります。
この時左腰は②で大きく切り返えす準備として、その反対方向に押し込んで置きます。前述の大転子と小転子の向きと位置とを身体に感じて居れば、何の苦も無く脚を捩じり、捩じり返す事が出来るのです。
ダウンスイングでは他の部分は其の儘にして置いて左腰をグッと真後ろに引きますと、自動的に右脚が左に押し出されるように伸びてきて、仙骨部分が左に引き寄せられます。
此処で左の股関節周りで大腿骨の軸回転が起きて、大転子と小転子の向きが入れ替わります。
この結果、左脚は伸びて地面を踏み締めながら股関節周りで殆どの体重を支えつつ、迅速に左回転します。此処で右股関節は大きく動いて大小転子が入れ替わります。
素晴らしいのは、この動きで右一杯に捻じられている脊柱全体を仙骨ごとグルリと裏返す様になります。そのため椎骨間の棘間筋が伸張反射を起こして上体が左に迅速に回転して来ます。しかも下から上に次第に早く回転しますから、腰の回転速度よりも肩の回転速度はかなり早くなります。しかも左肩は突き上げられるように持ち上げられ、逆に右肩は顎の下に潜り込むように押し下げられて来ます。これと両腕の動きでクラブが振られ、ボールを飛ばす事が出来るのです。
今迄のスイング理論では、脊柱は一本の軸で、腰も肩もこの廻りに同じ速度で回転するとされて来ましたから、それから先の合理的説明が出来なかったのです。

11.頸反射、目線と顎の押し込み

自分の背後に何かの気配を感じて急に振り返ると、向いた方の肩が吊り上がって来て顎にぶっかる。こう云う経験は誰も持って居るでしょう。
顎と肩との間に急激な捻じれが働く時には、本人の意識に関係なく、本能的に神経反射の一種としてこの現象が起きるので、これを頸反射と言います。
頸反射は、ゴルフスイングでは極めて重要な役目を持って居ます。
構えで首筋を伸ばし、頭を立てて顎をバックさせながら、その先端をグイッと左に捻じ込んで置きますと、目線と飛球線が重なってボールと先の飛球線とが良く見える様になります。だから顎の尖りのナイフの刃のような線は、正確に飛球線に沿いながら目でボールを追うことが出来ます。
顎の捩じり込みでバックスイングから、ダウンスイングに移る時には、首の左側に太い頸筋が立ち、顎の急速な締めが働くと、強烈な頸反射と共にクラブが迅速に振り出されて来ます。

12.ダウンスイングの主役は上体の裏返し、背中の筋肉を使う

ダウンスイングの最初に上体が捩じり戻り始まると、両腕が身体に引付けられます。此処で前述の様な動きで、胴体の左サイドが急速に真後ろに引き込まれます。この時頸反射が働いて顎が急速に右に締められますと、今迄身体の前の方に寄っていた左肩甲骨が迅速に裏返されて、左腕が内転し乍ら真直ぐに伸ばされて来ます。これに抵抗して首の左側に太い頸筋が立ちます。これに引かれて右肩甲骨と右腕とが伸ばされて来ます。前から見ると左図の様な形になる為には、頸反射を利用しての目線の固定と、意識としての左肩甲骨の裏返しが絶対に必要です、決して手や腕で叩きに行ってはいけません。
ただこれだけでは図の形にはなりません。前述の様に腰の切返しで、左股関節廻りに迅速な左回転が起きると同時に、右腰の押し込みが働きますので、バックで右側に被っていた上体が、一気に伸張反射を起こして背骨中心に上体が一気に裏返しされ、胸が張り背中が押し込まれ身体全体が弓なりになります。
こうすると左手首が迅速に内捩じりしながら左手が伸び、同時に右手は下から前に弾かれる様に伸びてきて、一気にインパクト、クラブが立って、綺麗なフイニッシュに納まります。

13.スイングの時間と時間感覚

ゴルフと同じ様に連続して体を動かす、踊りやラジオ体操などでは、音楽が不可欠です。まず全体のプログラムを覚えておけば、後は音楽に乗ってテンポもリズムも、次の動作に移る区切りも決められますが、ゴルフはそうは行かない所が難しいのです。
どのレッスン書にも「ゴルフはタイミングが大事である」と書いてありますが、具体的にはどう言うタイミングで打つのでしょうか?「一、二の~三」で打てとか、何分の何調子で打てとか、感覚的な事しか書いていません。
スイングの速さは人によって違うと言うだけで、まともに科学的に取り上げている人は誰も居ません。だいぶ前の事ですが私が面白い事を見つけましたので紹介しておきます。
当時のトッププロ9人の二千分の一写真から、自分で各プロのスイングを図のような7段階に分けて、その間の6つの時間とトータルの時間を調べてみました。
全部の時間は最短の尾崎将司プロ1.43秒から最長の手島多一プロ2.10秒と大差がある様ですが、バックスイングと最終段階を除く肝心の部分では驚く程に差がありません。もっと注目されるのは、各人のバックスイングの時間はほぼ正確にその全時間の半分なのです。この事は、経験から多くのプロに昔から知られていて、故川波義太郎プロが「行きと帰りは同じ時間だ」と言われたのを思い出します。
それだけではありません、①バックスイングの時間O~T ②トップからリリースポイントまでの時間T~S~A ③インパクト前後の時間A~I~B ④フオローの時間B~Fとしますと、それらの間にはスイングの速さに関わらず、8:2:1:5と言う簡単な比が成り立ちますから面白い。
かなり打法の違う尾崎将司プロと谷口徹プロとのデーターを表にしました。

表―1

打法も全部の時間もかなり異なる二人ですが比率は驚くほど似ています。この二人だけでなく他のプロでも同じ様なのです。何れにしてもスイング時間は構造を持っていると言う事が分かりました。
この時間構造とプロの連続写真とを比較する事で、今まで解らなかった色んな事が分かって来ます。先ず、バックスイングとそれ以後の時間が等しい事からスイング全体が振り子のように周期性を持っているのが解ります。
丁度クラブヘッドで一筆書きでもするように連続した動きが必要なのです。
だから完全なバックスイングが取れなければミスショットの原因にもなりますし、また、トップで無理にヘッドを止めると肝心の切り返しのエネルギーを利用することが出来ませんから、あまり飛ばないと言う事になります。
スイング全体の時間は各人の打法によってかなり違いますが、インパクト前後の0.08~0.09秒の間の動きは殆ど変わりません。これを最も有効に正確にするのがスイングの眼目でありましょう。
我々は、時間の感覚に就いて誤解している事が多いのです。約5mの高さから物を落として地上に落ちるまでの時間は1秒ですが、0.8秒では約3mになります。この辺までは、かなりゆっくりした時間として感じることが出来ますが、0.08秒は30㎝の落下ではなく、僅か3㎝なのです。こんな短い時間の間に多くの筋肉を物凄く迅速に動かさなければならないのです。ですから通常の時間感覚でインパクトの間には、此処はどう動かせなどとコーチが教えても、なかなか上手く身に着かないのです。

14.スイングのイメージを作る、リズムと感覚

以上の様な事柄が頭に入ったとしても、それだけではスイングは良くなりません。大脳で理解した事を、運動を司り各部分を有効に働かす役目の小脳以下に伝えはるには、明確なスイングイメージを作り上げるほかはありません。
これから打ち出すボールの種類と落とす位置まで、イメージして打ち分けるプロの様には、とても行きませんが、今迄の事を意識して真直ぐに良い球を打つ意識で練習を繰り返している内に、スカッと手に快い感覚を残して撃ち抜けるようになりました。勿論、不快な感覚の失敗打も多いのですが、段々これを少なくする様に努力しています。
自転車や車の運転と同じで、運動の制御は感覚で行われるのです。また、伸張反射を意識してから良くなったのですが、スイングは一回だけで終わる動きではありません。Ⅰ、2の3でジャンプする時の様に、一定のリズムで動くうちに、最大のものとしてスイングが行われるのです。
ワッグルする時も、歩く時も、このリズムを身体に保っている事が大切であると、倉本昌弘プロが良く言われています。私もそれなりにリズムを心掛ける様にしています。
こんな事で、漸く綺麗な弾道の球が打てる様になりました。距離はまだまだ不満ですが、歳を考えると仕方ないと思っています。それよりも、腰も膝も何処も 傷みませんし、疲れも少ないのです。前はラウンドの終わり頃はくたびれ切って居ましたが、今はまだ元気を残しています。
老齢でも、まだまだゴルフを楽しみたいと思われる方は、ぜひ本文を参考にして下さい。

【著者紹介】

沼田 晨(ぬまた あきら)

1931年生まれ 茨城県 出身
53年 東京都立大学工学部卒
同年小田急電鉄入社 同社工務部長 小田急商事常務 小田急情報サービス専務等を歴任 97年リタイアー
ゴルフ暦 53年 ベストハンデイ14
(現住所)〒252-0311相模原市 南区東林間 6-15-11
☎ 042-742-8432

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