エビデンスGolf~「感覚ゴルフ」から「スポーツ科学的ゴルフ」の時代へ Vol.10


【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)
●テーマ:道具の影響
「主観V.S客観 客観的データも大事だが個人の持つ主観の影響も大きい」



 パッティングに関する道具の効果は、各メーカーでは独自に研究開発がおこなわれています。
詳細な結果は公表されることはなく、秘密に扱われていることが多いと思われます。
そのため研究レベル(統計的手法、学術論文)では、意外とはっきりとわかっていることも少なく、そのくらい道具の効果性を研究(高い確率)で証明するのは難しいことなのかもしれません。
仮に、格段に効果性の高い道具が開発された場合、おそらくルールのレギュレーション(規制)がすぐにかけられ、使用できなくなるという矛盾を抱えています。
また、道具は使用者の精神面にも影響を及ぼすことからパターのスペックデータだけでなく、個人の主観的感覚や、先入観やバイアス、思い込みなども関わってきます。
今回は、パッティングに様々な影響を及ぼす可能性のある道具について科学的エビデンスを紹介します(引用1、図1)。



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図1 パッティングパフォーマンスを決定する主な要因モデル(文献(1)p7より引用改変)




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 パターヘッドには様々なタイプがあり、それぞれ何らかの利点を持たせデザインされています。
細かく分類すると数タイプに分類されますが、Kalsenらは、ブレードタイプとマレットタイプに大別して構えやすさについて調査を行っています(引用2図1)。
図1に示した12個のパターヘッドを用いて、0.4m~4.5m距離の16のターゲットに向かい、1人につき192回に及ぶアドレス時のクラブフェースの方向を調査しました。
実験参加者はプロを4名含むハンディキャップ9以下のエリートゴルフプレーヤー32名でした。
32名の実験参加者のうち18名(56%)のプレーヤーは、普段からマレットタイプを使用していました。
それにも関わらず、実験結果は、アドレス方向の変動性(①Aim variability)は、ブレードタイプの方が少なく、優れている結果を示しました(表1①)。
クラブフェースの目標からのズレを示した②Aim directionでは、平均すると0.8Left±1.8°とまったく同じ結果となりどちらも変わらないという結果でした(表1②)。
③主観的な構え易さ(③Subjective ratings)を尋ねた場合は、①方向の変動性での結果とは対照的に、マレットタイプを構えやすいとする点数が高くなっています(表1③)。
アドレス時のフェースの向き変動性では、ブレードタイプの方が少なく優れており、目標からのズレは同等でした。したがって客観的データが示すことはブレードタイプがやや有利という結果でした。
しかしながら、主観的な構えやすさでは、マレットタイプが有利となり、対照的な結果を示しました。ここに、客観的データだけでは解決できない道具に関する複雑な問題があります。



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図1 6つのブレードタイプパター(A)と6つのマレットタイプパター(B) 引用2より



表1 アドレス時フェース向きにおける2つのパタータイプの比較 引用2より改変
   ①方向の変動性 ②目標からのズレ ③構え易さの主観的評価

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  道具に対する思い込みを利用した興味深い実験をご紹介します。
米バージニア大学と独マックス・プランク研究所メンバーらの研究チームは、41名のゴルフ経験のある大学生ゴルファーを対象にゴルフの経験とパットの自信尺度といった技術レベルに差がでないように配慮し、2つのグループに分けて実験を行っています(引用3)。
両グループともに、スコッティキャメロンニューポート2というパターを使い、2.13m距離から通常のカップ(直径10.8㎝)に向かい10球テストしました。
ただし、一方のグループには、ベン・カーティス選手という2003年全英オープン優勝選手の使用したパターだと伝え、彼の功績(USツアー3勝など)を詳しく伝えてからテストを行いました(プロ使用群)。
もう一方のグループには何も伝えませんでした(通常群)。
実際はどちらのパターも本人は使用していない同一のパターです。
その結果、プロ使用群では、10回のテストのうち5.30±2.36回パットに成功、通常群では、3.85±1.95回のパットの成功にとどまり、約1.5回プロ使用群ではパットの成功回数が多くなるという結果になりました(引用3図2左)。
また、打つ直前にカップの大きさを想起させてパソコン画面上に円を作成する課題も同時に行われ、プロ使用群では通常群より、約1cmカップを大きく知覚していたこともわかりました(引用3図2右)。
つまり、「ベン・カーティス」が使用していた道具を使うことで彼の試合での活躍などのプラスイメージが沸き、その肯定的伝染は知覚にも作用し、カップを大きく感じることができ、そのためにパットの成功数が増えたと考えられました。
このような肯定的伝染は、信念と期待から生じる治療効果として知られるプラセボ効果として説明できるかもしれません。
通常プラセボ効果を誘発するには、偽薬や偽の手術を施す必要があります。
しかしながら、この実験では道具の所有者や道具の起源を伝えることで実験参加者は道具を評価し、普通の道具に対する強力な価値を与えたことでプラセボ効果をもたらしました。
これと似た現象として、薬の価格がその有効性に影響を与えることも実証されています(引用4)。



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図2 10回打った時のパット成功回数(左)  パット直前に知覚されたホールの大きさ(右) (引用3より改変)



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・万人に共通する道具の性能に対する効果性を高い確率で示すことは難しい
・格段に効果があるものはルールの規制がかかるはずである
・データ的に優れていても、使いやすいとは限らない
・道具に何らかの強力な価値を与えることで、信念と期待からプラセボ効果をもたらす
・プラセボ効果は科学的に認められており、誘発材料はパターの場合、元の所有者、有名プロと同一パター、有名パターデザイナー制作、価格、理論的な説明、愛着などが影響を及ぼすと考えられる

 例えば自転車に乗れない人が、高度な自転車を使うだけでは乗れるようになるわけではありません。
同様にパターもよい道具の使用だけでは自分の基礎的な技術は向上しません。
しかしながら、道具を変えることで、練習へのモチベーションアップや、効果が瞬時にあがることもあります。
特に、練習を良く積んだエリートゴルファーであれば、パターを変更することで簡単にプラスの効果が得られることはこれらの研究結果が示しており、長期間のトレーニングなしにパッティングパフォーマンスを向上するための一つの手法と考えられます。





引用文献
(1) Karlsen, J. (2010). Performance in golf putting. Dissertation from the Norwegian school of sport sciences.
(2) Karlsen, J. & Nilsson, J. (2008b). Golf players prefer mallet putters for aiming, but aim more consistently with blade putters, In, D. Crews & R. Lutz (Eds.), Science and Golf V: Proceedings of the World Scientific Congress of Golf V, 402 - 407.
(3) Charles Lee, Sally A. Linkenauger , Jonathan Z. Bakdash, Jennifer A. Joy-Gaba, Dennis R. Profitt. (2011). Putting Like a Pro: The Role of Positive Contagion in Golf Performance and Perception.
(4) Ariely D (2008) Predictably irrational: The hidden forces that shape our decisions. New York: Harper Collins.






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エビデンスGolf(ジュニア編)