エビデンスGolf~「感覚ゴルフ」から「スポーツ科学的ゴルフ」の時代へ Vol.9


【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)
●テーマ:精神的要因
「プレッシャー下でおこる現象」



 前回までに、パッティングにおける距離と方向についての基礎的なエビデンスを示してきました。
今回は、ゴルフをする人であれば一度は感じたことがある精神的要因がパッティングに及ぼす影響について説明していきます(引用1図1)。
特に、精神的な影響を受けやすいショートパットの成功率は、スコアを左右する大切な要素です。



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図1 パッティングパフォーマンスを決定する主な要因モデル(文献(1)p7より引用改変)




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 USPGAツアーの1パット成功率を調べてみると、2.4mで50%の成功率となります。
更に短い距離の1.2mでは88%の成功率を誇ります(引用2)。
しかしながら、1.2m距離が簡単なのかというとそんなことはありません。
確かに、距離が短く1パットの成功率が高いという意味では簡単なのかもしれません。
しかしながら、様々な方向から1.2m距離において100回パッティングを行い、88回ものカップイン成功を収めるのは並大抵ではありません。
USPGAツアーメンバーであっても1.2m距離は10回に1度は外しているのが事実です。
これがスコア90プレーヤーでの1.2m距離の1パット成功率は65%にまで下がり、決して1.2m距離が入って当然の距離ではないことが理解できます。
まずは、距離に対する1パット成功率を知ることで自分に対する過度のプレッシャーを回避することができる可能性があります。



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 国内のパッティング研究第一人者である、岩手大学准教授の長谷川弓子博士は、不安とプレッシャーが及ぼすパッティングの影響について調査しています(引用3)。
この実験では大勢の観衆の面前で2m以内のショートパットを打たなければならないというプレッシャーを与え、テスト直前に測定されたSTAI-1 (特性不安検査)という不安を測定する質問紙とプレー中の心拍数の結果から、事後的に23名の競技ゴルファーを、不安を強く感じていた高不安グループと不安をあまり感じていなかった低不安グループに分けて分析をおこないました。
実験の結果から、不安を感じていなかった低不安グループは、通常のパッティング条件と比べ、プレッシャー条件で成績を向上させ、高不安グループはプレッシャー条件で成績を低下させることが明らかになっています。



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 不安は大敵ということがわかっていても、全てのパットにおいて不安を完全に排除することは難しく、ラウンド中には誰しもがプレッシャーを感じ、不安をおぼえながらパットを打つこともあるでしょう。
プレッシャーによって強い不安があるときにパットをした場合に起こる現象についても、前出の長谷川准教授らは詳細に調査を行っています(引用3)。
パッティング中に不安を強く感じていた高不安グループは、1.25m、1.50m、1.75mの2m以内のすべてのパットにおいて、緊張によりバックスイングが小さくなりました。
このようにバックスイングが小さくなる現象は、不安を感じていなかった低不安グループにはみられませんでした。
さらに、高不安グループの1.25mのパットにおいては、有意にインパクト速度が落ちている(「ゆるんでいる」)ことがわかりました。
このような短いパット時に特に生じるインパクト速度の減少は「アンダーシューティング現象」と呼ばれています(引用3図2)。
プレッシャーや不安を感じたときにおこるアンダーシューティング現象は、実験でも明らかなように多くの人に起こる反応であり、自分だけにおこる特別に悪いことではありません、むしろ、ヒトとして本能的に起こる正常な反応と言えます。



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図2 不安とプレッシャーでおこる現象イメージ図 (文献3より引用改変)



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 ショートパットの成功率を理解して自己に対する過度の不安やプレッシャーを軽減しましょう。不安とプレッシャーを感じたら、アンダーシューティング現象を見越して、バックスイングをゆったりインパクト速度が落ちないように注意してもよいでしょう。
また、バックスイングが小さくなることを見越してフォローの加速やフォローに意識を集中することでインパクト速度を保つことも一つの解決策です。
別の手段として、普段の練習からショートパットはやや大きめに打つ練習をしておき、アンダーシューティング現象がおきても対処可能な距離感を身に付けておくことも解決策として考えられます。
いずれにしても起きている現象を理解することで解決方法は無数にあり、自分に合った方法を見つけることがゴルフの楽しみの一つです。





引用文献
(1) Karlsen, J. (2010). Performance in golf putting. Dissertation from the Norwegian school of sport sciences.
(2) Broadie, M. (2014). Every Shot Counts: Using the Revolutionary Strokes Gained Approach to Improve Your Golf Performance and Strategy: Avery.
(3) Hasegawa,Y.,Koyama,S.,& Inomata,K(2013). Perceived distance during golf putting. Human movement science,32(6),1226-1238.






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エビデンスGolf(ジュニア編)